大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(う)2546号 判決

被告人 米山洌

〔抄 録〕

所論は、原判決は

被告人は昭和三七年七月二八日午前〇時三〇分頃、米を買入れるため自家用小型貨物自動車にて、かつて闇米を数回買受けたことがある(新潟県)東頸城郡松代町大字千年六四番地柳政喜方を訪れ、同人と米を買入れることを約し、同人方から少し離れている同人方倉庫前において同人等をして袋入米約一、三九八瓩を自動車に積込ました後、同人に対して代金はしばらく猶予して欲しいと申入れ、これが交渉を進めんとしたところ同人がこれを強く拒絶し、現金でなければ米を渡すわけには行かないと言つて積込んだ米袋を自動車からおろすため自動車後部の扉を下げるや被告人は俄かに代金を支払わずに米を持去ることを決意し、手にて同人を自動車から払いのけ、急遽運転者に発車を命じて自動車にとび乗り、柳が運転席のドアに掴まり「とめろとめろ」と停車を求めたるもこれに応ぜずそのまま疾走して逃走した。

との事実を認定し、これを刑法第二三六条第一項の強盗罪に問擬しているが、原判示のとおり柳政喜等をして袋入米約一、三九八瓩を自動車に積み込ませた時、右米の所持は被告人に移転したのであるから、仮りにその後

被告人が原判示のように米を持ち去るためにした所為が暴行にあたるとしてもこれと、右米の所持の移転との間には何等因果関係がなく、強盗罪の構成要件である「暴行(又ハ脅迫)ヲ以テ他人ノ財物ヲ強取シタ」場合に該当しないから、原判決は判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤を犯したものである(また仮りに被告人の右米積込後柳の反対を排除して米を持ち去つた所為が、米の取還を拒ぐための暴行であつたとしても被告人は窃盗により右米を領得したものではないから、その所為は刑法第二三八条(準強窃罪)にいわゆる「窃盗財物ヲ得テ其取還ヲ拒ギ又ハ逮捕ヲ免レ若クハ罪跡ヲ湮滅スル為メ暴行(又ハ脅迫)ヲ為シタルトキ」にも該当せず同罪をも構成しない。)と言うに帰する。よつて考察するのに、所論刑法第二三六条の強盗罪にいわゆる「暴行又ハ脅迫ヲ以テ他人ノ財物ヲ強取」するとは、人の身体又は意思を制圧して相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行又は脅迫に基き、他人の占有する財物を自己(又は第三者)の占有に移すことを言い、記録及び原判決挙示の証拠によれば、原判示事実を認めるに足りるところ、被告人が柳政喜等をして袋入米を自動車に積み込ましめたのは、これが売買取引の成立を予想してその引渡及び運搬の便宜上、予めその所在を移動したに止まり、未だこれをもつて所論のように米の占有を被告人に移転したものとは解し難く、寧ろ原判示のように被告人はその後自動車に積載した米を持ち去ることを決意し手で柳政喜を自動車から払いのけ且つ同人が運転席のドアに掴まり発進を停めようとするのを振り切り発車疾走せしめよつて柳の占有する米を自己の占有に移したものと解するのが相当であるが、被告人がその際柳に対して加えた右有形力の行使は同人の身体を制圧してその反抗を抑圧するに足りる程度の暴行とは解し難いから、これをもつて被告人が右米を強取したものと言うことはできない。してみると、原判決がこれを刑法第二三六条の強盗罪に問擬したのは法令の適用を誤まつたものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから論旨は理由があり原判決は破棄を免かれないものと言わなければならない。更に職権により審究するに、本件公訴事実は

被告人は昭和三七年七月二八日午前〇時三〇分頃(新潟県)東頸城郡松代町大字千年六四番地柳政喜方倉庫前において同人に対し八月三日まで米を貸してくれと言つたのに現金と引換でなければ米は売り渡さないと肯んじないので被告人はむしろこれを強取せんことを決意し自動車荷台の後方扉をあけて積み込んだ米を降ろそうとする柳政喜の肩を掴んで押しこくる等暴行したので同人がひるむ隙に自動車を走らせ逃走中約六〇〇米も進行した同町字谷内五四三の一番地先附近において追及して来た右柳政喜に出会うや、あまりしつこい事云わんで米を貸してくれと云つたが同人より素気なく駄目だと断わられるや突然所携のキヤブレーターセツトスパナを右柳政喜の腕につきつけながら「俺は前橋の吉川だ、昔はちよつとは名前も知られた事もある」等と脅迫し同人等を畏怖させてその反抗を抑圧した上、同人から米約二、三一四瓩(十五石六斗位)を強奪したものである。(罪名強盗、罰条刑法第二三六条第一項)というにあるところ、各証拠を綜合すれば

被告人は昭和三七年七月二八日午前〇時三〇分頃(深夜)自家用中型貨物自動車でほか二名と共に、前に数回闇米を仕入れたことのある新潟県東頸城郡松代町大字千年六四番地酒類小売・雑貨商柳政喜(当時三四年)方を訪れ同人に米の買取方を申し入れ同人方附近の倉庫前において同人の保管にかかる同人及び佐藤尚文所有の紙袋七八個入玄米約二、三一四瓩を一応右自動車に積み込んだ上代金の交渉に入り、同人に対し前回買い入れた米が量目不足且つ品質不良であつたことを理由として右米代金から相当額の値引方を求めたが、話合いがつかなかつたので、代金は後日精算して支払うこととして取り敢えず米を引き渡されたい旨を要求したところ同人が強くこれを拒否し現金と引換でなければ米を渡すわけには行かないと言つて右自動車から、積み込んだ米を下ろそうとし自動車荷台後部の扉を下げ積荷の縄を解きはじめたので、被告人は突嗟に、同人の意に反しても敢て右米を持ち去り領得しようと決意し、自動車に手をかけている同人の背後からその両腕を押さえて同人を右自動車から引き離した上、急遽運転者に発進を命じて右自動車に飛び乗り、同人が右自動車運転者席の扉に掴かまり「とめろ、とめろ」と連呼して停車を求めたのに拘らずそのまま進行加速させて同人を振り切り疾走し、もつて右米に対する同人の占有を侵奪してこれを窃取し、逃走中同所から約六〇〇米を隔てた同町字谷内五四三番地の一地先附近の県道上において自動車の方向を転換していたところ同夜午前〇時四〇分頃右柳政喜が自動車に妻マキ(当時三五年)を同乗させて被告人等を追跡して来たのに追いつかれ、同所で同人から更に右代金の支払若しくは米の返還を求められるや、被告人は右米の取還を拒ぐため、所携の自動車用工具キヤブレターセツトスパナ(原裁判所昭和三七年押第一六号の一、長さ三〇糎弱、巾約二糎)を右柳政喜の右腕に突きつけ「しつこいぞ。何度言つたら判るのか。米を貸してくれ(掛売の意)と云つたら貸してくれてもいゝではないか。」「俺を誰だと思うか。俺がまともな人間だと思つたら大間違いだ。昔は前橋の吉川と云つて名の知れた者だ。」と言い次いで同人の妻が同人に加勢して口を挿むや同女に対し「女の癖に何を云うか。黙つていろ。文句があつたら降りて言え。」と言い同人等の身体に危害を加え兼ねない気勢を示して両名を脅迫しよつて同人等を畏怖させてその反抗を抑圧し、右米の取還を断念して立ち去るに至らしめた。

ことを認めることができ、右所為は刑法第二三八条(準強盗)の罪を構成するものであるから、原判決が原判示認定事実の段階において既に刑法第二三六条第一項(強盗)の罪の成立あるものと認めたのは、事実を誤認したものであつてこれが判決に影響を及ぼすこともまた明らかであるから原判決はこの点においても破棄を免かれない。

(小林健 多田 遠藤)

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